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日本の医療機器が救う、 16秒に1人消えゆく小さな命(メロディ・インターナショナル株式会社)

メロディ・インターナショナル株式会社
代表取締役 CEO
尾形 優子 氏

メロディ・インターナショナル株式会社(以下、メロディ)は、妊婦さんと赤ちゃんの安心・安全のための周産期遠隔医療プラットフォームの構築と事業化を目指す、香川大学発ベンチャー企業だ。なぜこの分野の課題に着目し、そしてコロナ禍にも関わらずフィリピンでの薬事認証取得と現地進出を推進できたのか。

現場を見て確信した、周産期医療における創業の意味

創業者である尾形氏にとってメロディは2社目のベンチャー創業となる。2000年ごろ、経産省の“四国4県電子カルテネットワーク連携プロジェクト”に携わる中で、それまで存在しなかった産科用電子カルテの必要性を感じた。しかしプロジェクトは2年で終了。「妊婦さんを救いたい」という想いを強めた尾形氏は、参加企業から電子カルテのプロトタイプを自ら買い取って2002年に1社目を創業した。この電子カルテプロジェクトを通じて出会ったのが、世界標準となっている分娩監視装置CTGの基本原理の発明者である香川大学の原量宏名誉教授だ。その後、原教授がタイのチェンマイ大学と連携して実施したJICAプロジェクト“妊産婦・新生児死亡の予防を目的とした救急時の移動式胎児心拍計導入と産科一次スクリーニング診断導入と一次医療人材育成による周産期死亡改善事業”に尾形氏も参画。モバイル型の胎児心拍計を使い、チェンマイ市中心部の中核病院と地方の病院、そして僻地のヘルスセンターの間で妊娠検診結果を共有する実証実験を行った。結果、ヘルスセンターで胎児の異常を発見し、対応可能な上位病院へ搬送することで妊婦と胎児を救うことができたのだ。簡便に使えるモバイル型胎児モニターがあれば、救える命があると気づけたという尾形氏。そこで製品化と販売と体制を整えるために、2015年にメロディを創業した。

モバイル型機器で不足する医療資源をカバーする

メロディのコアとなる“分娩監視装置iCTG”は、妊婦のお腹の張りと胎児の心拍数をワイヤレストランスデューサで計測し、タブレット端末を経由してクラウドサーバーに送信・記録する。対応する産婦人科医は遠隔からでもそれを閲覧し、異常があれば気づき、適切なタイミングで指示を出すことができる。思い描くのは、地域ぐるみでの周産期医療体制の整備だ。日本の産婦人科には据え置きの分娩監視装置が完備されているが、特に地方において医師数が減少している。発展途上国では医師や医療インフラ、機器のいずれも、もともと不足している。モバイル端末を通じて妊婦と胎児を見守りつつ、医療的対応が必要な状態が発見されたら、地域ネットワークの中で対応することで、不足する医療資源の中でも安心・安全な出産が可能な社会を築けるはずだ。チェンマイ市での実証の成果から、この考えは特に途上国において重要となることを確信していた尾形氏と共同創業者の二ノ宮氏は、国やJICAの事業を活用して、タイだけでなくブータンやアフリカでの実証と事例紹介を重ねてきた。

▲モバイル分娩監視装置iCTG

現地法人と組み、フィリピンにて1年半で販路を開拓

安心・安全に子どもを産める環境を整備する。その価値はどの国においても共通して大きなものであり、補助事業等を通じた海外での活動の展開は13カ国まで広がった。一方、医療機器メーカーとして、各国の基準や医療体制に合わせて販路をゼロから構築するのは至難の業だ。そこでメロディは2021年からリバネスと連携し、東南アジアでの販路開拓に乗り出した。まずは、各国で避けて通れない薬事認証のプロセスを洗い出し、現地の医師にヒアリングすることで機器のニーズを探った。すると、特にフィリピンのような島嶼国では、コロナの影響に寄らずとも、元々医師不足と遠隔医療のニーズが根強いことが分かった。そこで、フィリピン現地の代理店にコンタクトし、2022年に薬事認証を取得。さらに、医療機器の展開に必要不可欠な現地のキーオピニオンリーダーとなり得る産婦人科医と交渉を行い、公立と私立、都会エリアと僻地と比較対象にもなる3名の医師と実証実験を成功させた。一連の進行に何より重要だったのは、現地法人が持つネットワークと駆動力だったという。「現地販売代理店との折衝で、オンライン会議やメールだけではなかなか向こうが動いてくれず、返事も来なくなって諦めかけていたんです。そのとき、リバネスフィリピンの社員が代わりに直接会いに行ってくれたことで交渉を再開でき、起死回生の瞬間となりました」と、フィリピンでの事業開拓を担当した神原氏は振り返る。本格的な進出の検討からわずか1年半で、現地販売代理店との契約の手続きに進み、展示会ではプレオーダーの獲得にも成功した。

▲現地産科医師の協力による、フィリピンでの実証の様子

ITと医療機器で世界中の妊婦さんと赤ちゃんを救う

世界では、毎年200万人もの赤ちゃんが死産で亡くなっている。これは16秒に1人という計算だ。海外展開の中核社員として中途入社した神原氏も、メロディの目指す世界に惹かれて参画した。「これから赤ちゃんが沢山生まれて人口が増えていく国では、産科医療の充実は喫緊の課題です。日本の香川から、自分も貢献できるのではと気づき、この課題を自分ごととして捉えることができました」と語る。島国の課題という意味で、メロディの拠点であり過疎地域の医療に課題のある香川県とフィリピンを重ねて考えることもできるかもしれない。「世界中の赤ちゃんとお母さんに安心安全な出産を届けるために、一歩ずつ前に進んでいきたい」と尾形氏は意気込む。今回のフィリピン進出プロジェクトで一緒に動いたリバネスフィリピンの活気にも刺激を受け、現地の販路確立に向けて現地拠点設立も積極的に検討したい考えだ。メロディが救う小さな命が、ひとつ、またひとつ、鼓動を刻んでいくだろう。(文 秋永名美)

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