ディープテックツアー
企業向け
建ロボテック株式会社
代表取締役社長兼 CEO
眞部 達也 氏
建ロボテック株式会社(以下、建ロボテック)は、“世界一ひとにやさしい現場を創る”をミッションに、建設現場の“生産性向上”と“作業者の負担軽減”を目的とした独自開発ソリューションを提供する、香川県で誕生したベンチャー企業だ。創業当初から世界展開を見据え、2023年にはシンガポール法人を設立した同社は、どのようにして海外への一歩目を踏み出したのだろうか。

匠の技術を生かしきれない現場の課題
「私は世界一やさしい建設現場を作るために、この会社を創業したんです。だからこそ、創業期から世界を見据えていることを国内でアピールし、世界展開を共に進めてくれる仲間を香川に集めることが重要でした」。そう語るのは建ロボテックの眞部達也氏だ。眞部氏がそう志したきっかけは、父親が経営する建設会社に入社し、日本国内の現場の実情を知ったことだった。長い期間の下積みを経て高度な建設技術を持つに至った職人たちが、慢性的な人材不足ゆえに建材の荷運びや基礎の結束作業など、比較的単純だが膨大な作業に追われている。技術を持った職人だからこそできる、誤差数mm以内を実現する木組や刻みなどに、十分に技術を生かせない現場のもどかしさがある。だからこそ、建設現場で働く職人たちの負担を軽減し、彼らの生産力が向上するような世界を実現しなければいけない。そのために、建設現場で働く職人に寄り添ったソリューションを開発し、世界に広げたい。こうして建ロボテックは創業した。
職人に寄り添うロボット創り
建ロボテックが開発したロボットたちは、どれもがそれぞれの現場を担当する職人たちの声から誕生している。例えば基礎鉄筋は、長く重たい鉄筋を持ち運んで均等な格子に並べ、腰を屈めながら交差部分を針金で結束していく作業を繰り返して作られるが、体への負担が大きい。そこで、現場に携わる職人の声に応えるため、持ち運びと結束を自動で行う“運搬トモロボ”“鉄筋結束トモロボ”を開発した。現場の職人たちの友達となれるような製品にしたいという思いからつけられた名前だ。また、屋根工事で大変とされている、鉄板の接合部分をカシメる作業をサポートする“シーミングK2”は、屋根工事会社とアライアンスを組み、現場の課題を抽出して開発された。「私たちは、職人の仕事を奪いたくてロボットを開発していません。彼らがもっと思い思いに匠の技を披露できる時間を増やすために、単純だけど量が多かったり体への負担が大きな作業を代わりに担うロボットを提供する。だからこそ、どんな現場でも扱い続けたいと思える、現場を支える職人に喜ばれる製品を開発することが重要です」と眞部氏は語る。

世界に羽ばたくための拠点設立
一方で、建設現場を取り巻く環境は国によって異なる。各国の現状を理解しようにも、ステークホルダーの分からない中に単身で乗り込んだところで、仲間に入れて貰えるほどやさしい世界は広がっていない。だからこそ建ロボテックは、リバネスがシンガポール経済開発庁・シンガポール企業庁と実施している、日本-シンガポール間での産業交流を加速し新たな事業を創出していく“GIA(GlobalInnovationAlliance)”を活用した。そのプログラムの中で、東南アジア最大の展示会“SWITCH”にてシンガポール建築・建設省(BCA)と面談し、実証場所準備の協力、シンガポール国内における展開への協力、その他東南アジアの建設会社を紹介してもらえる関係性を構築することに成功した。こうして建ロボテックは世界へ羽ばたくための第一歩としてシンガポールに拠点を構えることを決めた。再びリバネスシンガポールの支援により、現地法人の戦略策定、設立に必要となる士業人材とのコミュニケーション、会計事務所の選定、現地オフィスの手配、銀行口座開設準備等を経て、2023年2月にKENROBOTECHASIAPTE.LTD.を設立した。
最前線に自ら身を置くことで、課題の奥行きが見える
現在、建ロボテックは、シンガポール拠点を活用しながら、国外でのレギュレーション対応を進めるため、政府系デベロッパーとの実証試験を開始している。「私たちが目指す、世界一やさしい建設現場作りは始まったばかりに過ぎません。一方で、海外に拠点を置き、各国の現場の課題という一次情報を自らの足で集めることで、日本とは異なる要因で課題が広がっていることが分かってきました」。各国の建設現場の課題の原因は国、風土、働く人によって全く異なる。例えば東南アジアでは、建設現場で働く人の多くは移民であり、その多くは技術を磨くために働いているのではなく、生きるために働いている。やる気や誇りを持って仕事をしている人もいるが、数は少なく、効率も悪い。同じ人材不足でも、日本とは異なる要因で課題が発生しているのだ。一方で東南アジアは建設ラッシュの最中であり、シンガポール国内だけでも、単純作業者は慢性的に30万人足りないといわれている。だからこそ、現場に拠点を置き、最前線で一次情報を早期に集め、どうソリューションを提供するかを仲間と共に想像する。ビジョンから始まる戦略的な世界挑戦は、確かに一歩ずつ、未来の建設現場を創り始めている。(文 小玉悠然)
