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海外展開を加速する日本企業にとって、グローバル人材の育成は欠かせない。従来型の語学研修や海外視察だけでは不十分との認識から、実践的なアプローチで成果を上げる企業が増えている。2024年12月10日に行われた「グローバルブリッジカンファレンス」第二部では、3社の事例を通じ、グローバル人材育成の新潮流を探った。
■変化するグローバル人材の定義
グローバル人材に求められる要件は、時代とともに変化している。近年、日本企業にとっての海外の位置づけが、製造や原料の供給、販売拠点というだけでなく、各地域特有に起こる新たな課題解決のため、新事業を立ち上げる共創パートナーへと変化している。新興国の成長がその傾向を後押ししている。そんな中、求められている力は、単なる語学力やコミュニケーション能力だけでなく、「地球規模で課題を捉える視点」や、「多様な人々との協働力」だ。カンファレンスでは株式会社リバネスとともに実践的な活動を通じて、それらの力を鍛える人材育成プログラムを経験した3社に、その事例を伺った。
■語学力に関係なく世界を身近に感じる
カルビー株式会社では海外売上高比率40%の目標達成を担い得る人材を発掘し、育成することが喫緊の課題であった。しかし、当時は積極的に海外展開を担いたい、という人材は多くなかった。そこで、次世代リーダー育成プログラムを導入した。10ヶ月のカリキュラムの集大成として、タイでの現地研修を実施した。参加者は自社タイ工場周辺のアントレプレナーやアカデミアとの交流を通じて、海外の状況やアントレプレナーのパッションに触れ、海外事業へのモチベーションを高めた。参加後、参加者からは「海外は思ったほど遠くなかった」「まだまだ世界はこんなに広くて面白い」という声が聞かれた、と人事・総務本部 人財戦略部 人財開発課兼 グローバル人事部の中田結花さんはいう。参加後、全員が何等かの形で海外に携わりたいと表明し、実際に海外案件を手掛ける人も輩出することができた。
■0から1をつくる経験を多国籍チームと積み重ねる
株式会社ソミックマネジメントホールディングスは、自動車部品製造の既存事業から新規事業を模索中である。0から1を作り出す経験がない中、副社長管轄でグローバル経営変革推進部を組織。日本を含め、6カ国のメンバーを採用した。今年、彼らと自社の拠点があるインドネシアを対象に課題解決に繋がる新規事業テーマを探索。現地スタートアップの事業内容理解や現地訪問を通じて、5ヶ月間で2テーマを創出した。「志や目的で繋がり、尊重の気持ちを持って相手を理解しようとできる人材がグローバル化には必須だと感じた。新規事業を検討することを通じ、経営者の視点を持って相互理解を深める人材をまずはこのチームから。徐々に増やしたい。」とグローバル経営変革推進部 経営企画推進室企画グループの鈴木治さんは話す。課題もある。ものづくりで培った知見や経験を活かして、新事業に転用できるよう、部外の協力を得られる体制を築く必要がある、と痛感している。
■巻き込まれて現場を見に行って自分ごとに
株式会社フォーカスシステムズIT イノベーション第二事業本部 ビジネスクリエーション部の祷瞭さんは、自社の事業を活かした海外展開を考えるにあたり担当者として任された。新規事業を担当するのも初めて、海外も初めての祷さんは、訪れたフィリピンで衝撃を受ける。「路上で子どもが勉強しているような状況で教育環境は十分と言えない。次世代人口も多い分、教員の目が届かず、誘拐が起こったりしているのもこの国ならではの課題だと考えた。」自社製品のビーコンを教育現場の課題を解決するためのアイデアを考え、自ら11回現地を訪問。事業化を推進している。「最初は上司に巻き込まれて始まった取り組みですが、失敗を恐れずにと背中を押してもらい、課題を見に行き続けて自分ごとになったことで、自分自身がすごく変わった。現地にいくたびに相互理解が深まり、挑戦するパッションも湧き出てくる」と祷さんはいう。
■実践を通してこそ得られる学びがある
3社に共通するのは、座学や視察だけでない「実践の場」を重視する点だ。現地の課題に真摯に向き合い、解決策を見出そうとする姿勢は、参加者の意識を大きく変え、具体的な成果にも繋がっている。最後のまとめを行った株式会社リバネスの高橋修一郎は、リバネスが考えるABCDE理論を紹介した。「日本企業がグローバル市場で成功するには、単なる視察だけでなく、現地の声に耳を傾け、課題解決に全身全霊で取り組み、結果を出せる人材が不可欠。そこから生まれるリアルな経験こそが、真のグローバル人材を育む土壌となる。リアルな課題があり、自分たちのできること、アセット( A)を考え、ビジネスモデル(B)と真の顧客(C)を考え、ビジネスをデザイン(D)する。それを橋渡しするアントレプレナ( E)がいて、初めてグローバル展開は実現する」。今回紹介された3社の事例も踏まえ、ぜひ自社に必要なグローバル人材育成とは何か、を考えてみてほしい。
グローバルブリッジカンファレンス 第2部 グローバル人材はどのように育つのか?
https://gbp.lne.st/global-bridge-conference/