2026年12月12日(金)に、Global Bridge Conference 2025を開催しました。本稿では、セッション1「知識製造業の新時代におけるグローバル戦略とは?」について、セッションの再録をお送りします。

国内市場の縮小が現実味を帯びるなか、すべての企業が「グローバル戦略」の必要に迫られている。このパネルディスカッションでは、キリン、リコーといった大企業から地域の中堅・中小企業まで、それぞれが仕掛けているグローバル戦略について語っていただいた。単なる輸出やM&Aではない、現地の知識と自社の知識を組み合わせ、新しい事業を開発する過程で生み出された知識は、「新時代におけるグローバル戦略」として、新規事業・海外展開を担うすべての人に示唆を与えるはずだ。
登壇者
・キリンホールディングス株式会社 ヘルスサイエンス事業本部 ヘルスサイエンス事業部 主務 川久保 武 氏
・株式会社リコー 技術統括部 先端技術研究所 CoE 戦略推進室 池應 敏行 氏
・株式会社山田商会ホールディング 代表取締役社長 山田 豊久 氏
・カネマサ製作株式会社 代表取締役 関根 誠司 氏
モデレーター
・株式会社リバネス 代表取締役 グループCEO 丸 幸弘

■ 自社の技術をドライブさせ、現地にフィットさせるためのパートナー探索
リバネス 丸 幸弘 皆さん、こんにちは。リバネスの丸です。今日は「グローバル戦略」なんてかっこいいテーマでお送りしますが、この「知識製造業の新時代」という言葉、実は私の最新の著書のタイトルでもあります。みずほ総合研究所の機関誌『fole(フォーレ)』にて連載を持たせていただいたことをきっかけに、日本が強くなるために製造業をどう転換すべきかを考え続けました。構想から4年を費やし、2023年6月13日に出版した書籍です。
まず皆さんに現実を直視していただきたい。今、日本の15歳未満の人口が何人かわかりますか? 1,366万人です(※1)。10年後、25歳未満の人口は約2,200万人です。 そのまた10年後、35歳未満の「一番脂が乗った世代」は約3,000万人になります。この数字を事実として捉えたとき、20年後に日本企業が生き残る道は、もはや国内で稼ぐといった延長線上にはありません。 生き残るためにグローバル戦略を作る、「やるしかない」最終段階に来ているんです。
※1(総務省統計局「我が国のこどもの数こどもの数」より:2025年4月1日現在の値)
だからこそ、我々は「製造業」から「知識製造業」へ変わらなければならない。知識と知識を組み合わせて、新しい事業を開発していく。 これは大企業も中小企業も関係ありません。 今日はその最前線にいるメンバーに、それぞれの立体的な戦略を語ってもらいましょう。 まずはキリンの川久保さん、お願いします。
キリンホールディングス 川久保 武 氏 キリンホールディングスの川久保です。丸さんの熱いメッセージの後に話しにくいですが(笑)、私は今、キリンでヘルスサイエンス事業の新規事業を担当しています。キリンといえばお酒のイメージが強いですが、実は今、グループの製薬会社である協和キリンとの共同出資でCowellnex株式会社という研究開発・新規事業創出・ベンチャー投資等を行う会社を作り、そこでも活動しています。
丸 キリンさんみたいな巨大なグローバルカンパニーでも、相当な危機感を持って新しいことをやろうとしていますよね。
川久保 そうですね。私のキャリア自体、前半は醸造技術者として美味しいお酒を作っていましたが、後半はプラズマ乳酸菌のような、新しい健康価値をどう社会に実装するかという新規事業に捧げてきました。 キリンの戦略として今掲げているのは、アジア・パシフィックで最大級のヘルスケアカンパニーになることです。そのために、去年はファンケル社や、オーストラリア最大のサプリメント企業であるブラックモアズ社を仲間に加えました。
丸 これ、面白いんですよ。キリンさんは過去、アメリカやブラジルでも勝負してきましたが、今回は明確に東南アジアにフォーカスしている。以前の取り組みと何が違うんですか?
川久保 一言で言うのは難しいですが、これまでは「ビール会社がビール会社を買う」というかたちが多かった。でも今回は、プラズマ乳酸菌などの我々の技術をドライブさせるための戦略的なパートナーとして、日本・東南アジア・オーストラリアなどの各地で信頼され、我々にはないアセットを持っている、ファンケルやブラックモアズのような会社と組んだんです。単に売上を買いに行くのではなく、各社の強み・知識を組み合わせて、現地にフィットさせるための戦略です。
丸 いいですね。川久保さん、次は「ジャムウ(インドネシアの伝統医薬)」のような地元の伝統知を科学する会社も買ってほしいな(笑)。 次はリコーの池應さん、お願いします。

川久保 武 氏(キリンホールディングス株式会社 ヘルスサイエンス事業本部 ヘルスサイエンス事業部 主務)
■ 現地のセールスマンによって現地の課題を捕捉。課題の近くで開発するための研究拠点
リコー 池應 敏行 氏 リコーの池應です。私は2019年からドイツのデュッセルドルフに赴任し、現地で研究拠点を立ち上げました。 もともとはレーザーの開発などを行っていましたが、ドイツでは現地の営業と連携し、物流領域の新しい事業開発やプロトタイプ開発をやってきました。 昨年帰国し、今はドイツとシンガポールのプロジェクトを日本から支援しています。
丸 リコーさんほどの会社が、なぜドイツに研究所を作ったんですか? 日本に大きな研究所があるのに、わざわざ「出島」を作ったわけですよね。
池應 それが、まさに「知識製造業」への転換なんです。 これまでは「日本で技術を育てて、それを海外に持っていく」というモデルでしたが、それではもう間に合わない。 今は、現地で顧客の課題を捕まえ、そこで要素技術も開発して事業を回す。 そして現地で育てた技術を横展開し、共通部分は日本のプラットフォームへ戻すという現地主導の戦略を取っています。
丸 これ、めちゃくちゃ重要なポイントです。 マーケットに近いところで研究開発をしないと、他国のスピード感には絶対勝てない。 情報だけ取ってきて日本で開発して……なんてやってると、コストも時間も合わなくなる。 わかっていてもできなかったことを、リコーさんはやり始めた。何がきっかけだったんですか?
池應 コロナ禍でリモートワークが拡大し、主力のプリンティング事業のボリュームが減ったことも大きなきっかけでした。 ものづくりだけでは生きていけない。 でも、リコーには世界中にセールスマンのネットワークがあります。 そこで、彼らを「課題を捕まえるセンサー」として使い、新しい事業を起こそうという流れになりました。 ドイツの小さな組織で、自分たちで案件を獲って回すスピード感の重要性を痛感しましたね。
丸 現場のセールスマンを「課題のセンサー」に変えたわけだ。 センサーといえば、今日ここにセンサー技術を持っているベンチャーが来ていますよ。タイから来た「Cleantech」という会社です。シールを貼るだけで、輸送中の荷物の温度変化をスマホで一括管理できるのです。これをリコーさんのネットワークと組み合わせたら、面白いことが起きると思いませんか?
池應 非常に面白いですね! 我々も360度カメラTHETAを使って、空間をデジタル化して3Dに落とし込むような事業を展開していますが、現地のリアルな課題と結びつくことで、技術は初めて「知識」として価値を持ちます。 ぜひ後でお話を聞きたいです。

池應 敏行 氏(株式会社リコー 技術統括部 先端技術研究所 CoE 戦略推進室)
■「設置・保守できる」強みを武器にベンチャーと連携し、世界とつながる
丸 大企業の話が続きましたが、次は中堅企業側です。まずは、山田さんお願いします。
山田商会ホールディング 山田 豊久 氏 名古屋から来ました、山田商会の山田です。私は5代目で、会社としては120年以上の歴史があります。主にガスの配管工事など、エネルギーと建設の分野で仕事をしています。
丸 山田さんは、私がマレーシアへ連れて行って「騙した」1人です(笑)。
山田 はい、3年前に丸さんに「マレーシアへ行くぞ」と言われ、その場で決めました。結果、大正解でした。我々のような下請けとして長くやってきた企業は、指示されたことを完璧にこなすのは得意ですが、自分たちのオリジナリティや知的財産が乏しいという悩みがありました。 そこでリバネスさんと出会い、自分たちの強みを再定義したんです。我々の強みは「実際に現場に行って、物を据え付け、メンテナンスができること」だと。
丸 「設置ができる」というのは、実はグローバルなベンチャー企業から見たら、喉から手が出るほど欲しいアセットなんですよね。
山田 そうなんです。今、私たちは「レジリエンスの強化」というテーマで、「エネルギー」「インフラ」「農林水産」「住環境」の4分野に絞り、国内外のベンチャー8社と連携しています。 先日もイギリスへ行きましたが、歴史を重んじるイギリスでは、120年続く山田商会というだけで、歓迎されました(笑)。現地のベンチャーから「日本での実装を助けてくれ」と。例えば、リチウムイオン電池のセルの状態を高精度で可視化する技術を持つイギリスのベンチャー。彼らの技術を、私たちが日本で設置し、実証することを考えています。
丸 地方の中堅企業が、いきなりイギリスのテックベンチャーの日本拠点になる。これこそが新時代のグローバル戦略ですよ。ガスだけじゃない、水道、電気、そしてベンチャーの最新デバイス。これらを「設置・保守できる」というアセットを武器に、山田さんは世界とつながった。
山田 現場を持っている強みですね。 今日もこの後、イギリスの電池ベンチャーとディスカッションする予定です。 我々が実際に使ってみて、「ここはこうした方がいい」と現場目線でフィードバックをする。 そうすることで、我々の社内にも新しい技術や知識が溜まっていく。 いいサイクルが生まれています。

山田 豊久氏(株式会社山田商会ホールディング 代表取締役社長)
■ 信頼できる「個」のネットワークをたどるのが一番の近道
丸 最後は、広島から関根さん。 現場力が凄まじい、まさに「放浪の経営者」です。 お願いします。
カネマサ製作 関根 誠司 氏 カネマサ製作の関根です。 広島で板金や機械加工をやっています。 私はもともと学生時代、お金が貯まればインドを放浪していたような人間で、勉強より現場、というタイプです。 創業80年弱の会社で、鉄道車両の部品などを作っていますが、2014年に入社したとき「大手の下請けのままじゃつまらない」と思ったんです。 自社商品が欲しい。 そこで東工大の先生と出会い、太陽エネルギーを使った水処理及び水素生成装置を共同開発しました。
丸 でも、日本だけでは市場が限られる。そこでフィリピンへ行ったんですよね。
関根 はい。広島県の支援を受け、リバネスさんと一緒にフィリピンへ行きました。 オンライン会議では「電気が足りない」と聞いていましたが、実際に行ってみると、ギラギラに電気を使っているエリアのすぐ横に、裸電球1つの地域がある。 排ガスを出すジープニー(乗合タクシー)が走り回っている。 この「ギャップ」を肌で感じたとき、自分たちの技術がどこに刺さるかが見えました。 現地でリバネスの人に「明日プレゼンしてください」と突然言われ、ホテルで必死に資料を作って発表したら、その夜に「明日実証試験の場所を決めよう」となった。 スピード感が全然違います。
丸 関根さんはそこからさらに、マレーシアでジョイントベンチャー(JV)まで作ってしまいましたよね。
関根 そうなんです。マレーシアのRobopreneurという会社と出会い、彼らのものづくりの悩みを解決していくうちに、一緒に新しい装置を開発することになり、JVを立ち上げました。 今は試作の第2フェーズに入っています。 さらにその繋がりから、今はインド、そしてザンビアの国家プロジェクトである大型発電所の開発にまで話が広がっています。
丸 広島の町工場が、ザンビアの国家プロジェクトですよ。 これは「組織」の力というより、関根さんの「個」のネットワークが、信頼を通じてつながっていった結果です。
関根 まさにそうです。現地の人間は職務としてやる以上に、「これをやりたい」という欲求が強い。そのエネルギーに触れ、信頼し合える「個」のネットワークを辿っていくことが、海外展開において一番の近道だと実感しています。

関根 誠司 氏(カネマサ製作株式会社 代表取締役)
■ ベンチャーを巻き込み、国家を動かす
丸 さて、素晴らしい話が出揃いました。大企業のキリンさん、リコーさんが現場に降りていき、中堅・中小企業の山田さん、関根さんが世界中のベンチャーや国家プロジェクトと直接繋がっている。 ここで共通しているのは、もはや物の売り買いの話ではないということです。それぞれの持っている知識をどう組み合わせ、現地の課題を解決するか。川久保さん、どうですか?
川久保 山田さんや関根さんのスピード感、本当に刺激になります。 我々大企業も、もっとアグレッシブになりたい。 自分たちにない設置・保守の力や現場の突破力を持つ皆さんと組むことで、もっと面白いことができるはずです。
池應 リコーも同じです。 我々はプリンターの保守網は持っていますが、オフィス以外の現場のノウハウはまだまだ。 山田商会さんのような現場のプロと、我々の技術、そして現地のベンチャーが繋がれば、もっと大きなインパクトが出せるはずです。
丸 最後に皆さんに伝えたいのは、この後に行われるベンチャー企業との連携の重要性です。 海外のベンチャーは、時に国家にプッシュされています。 タイのチュラロンコン大学発のベンチャーや、シンガポールのエネルギーベンチャー……。 彼らと組むことは、そのままその国の政府や大学と繋がることと同じなんです。 彼らが持つ未来の部品を手に入れ、皆さんの現場力と掛け合わせる。
「知識製造業」の時代において、グローバル戦略はもはやオプションではありません。 生き残るための生存戦略です。 今日、この会場には20社以上の国内外のベンチャーが集まっています。 どうか皆さん、今日を単なる「勉強の日」にしないでください。 1つでもいい。ここで知識の部品を手に入れ、来年一緒にプロジェクトをやりましょう。その約束をして、このセッションを終わりたいと思います。

キリンホールディングス株式会社 ヘルスサイエンス事業本部 ヘルスサイエンス事業部 主務 川久保 武 氏
2009年キリンビール㈱入社。入社後、ビール・チューハイ類の技術開発・生産管理に従事。その後、社内公募制度により新規事業部門へ異動。プラズマ乳酸菌を中心としたヘルスサイエンス事業の立上げを経験。現在は、再び、次なる主力事業を育てることに挑戦するため、現在、『腸内細菌調節による人々の「不」の解消』をヴィジョンに掲げる腸内細菌事業のサービス開発や、オープンイノベーションによる新規事業の開発を担う。
株式会社リコー 技術統括部 先端技術研究所 CoE 戦略推進室 池應 敏行 氏
2014年、大阪大学大学院基礎工学研究科を修了後、株式会社リコーに入社。宮城県の応用電子研究所にて、面発光レーザー(VCSEL)を用いたレーザーシステムの研究開発に従事。2019年より、欧州R&D拠点の立ち上げのためドイツ・デュッセルドルフに駐在。2024年9月まで、物流領域における新規事業のマーケティングやプロトタイプ開発を推進するとともに、オープンR&Dプロジェクトの立ち上げを支援。現在は帰任し、日本からドイツおよびシンガポールのR&D拠点を支援中。
株式会社山田商会ホールディング 代表取締役社長 山田 豊久 氏
2004年(平成16年)3月東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻修了、株式会社山田商会入社。07年5月取締役就任。10年5月新設された経営企画室の室長として会計業務や職場環境などの改善に着手。11年3月取締役常務執行役員、14年3月取締役専務執行役員を歴任し、業務領域や部署間における多能工化を推し進めていく。16年9月取締役副社長執行役員を経て20年5月に代表取締役社長執行役員に就任。
カネマサ製作株式会社 代表取締役 関根 誠司 氏
茨城県生まれ。大学時代、東南アジアからヨーロッパまで陸路で横断。約30か国を放浪。大学卒業後、THK株式会社に入社。国内勤務を約5年経てイギリス支店へ転勤。その後、フランス、ドイツ、スウェーデンに勤務し、各拠点からアフリカ、東欧、中東、ロシア等の国・地域へ展開。13年の欧州勤務を終え、2013年に帰国後、カネマサ製作に入社。2014年に現職。従来の金属製品製造に加え、第二創業としてエネルギー関連事業に乗り出す。現在、東南アジア、インド、アフリカなど海外展開に注力。
株式会社リバネス 代表取締役 グループCEO 丸 幸弘
博士(農学)。2002年大学院在学中に理工系大学生・大学院生のみでリバネスを設立。日本初「最先端科学の出前実験教室」をビジネス化。異分野の技術や知識を組み合わせて新たな事業を創る「知識製造業」を営み、アジア最大級のディープテックベンチャーエコシステム「テックプランター」の仕掛け人。世界各地のディープイシューを発掘し、地球規模の課題解決に取り組む。主な著書に『ディープテックDeepTech 世界の未来を切り拓く「眠れる技術」』(日経BP)、『知識製造業の新時代』(リバネス出版)など。